2015年12月28日月曜日

機織り 〜クロマーユーユー カンボジア〜


8時にNくんの運転する車に乗り込み工房へ向かいます。車で2、30分ほどのところにあるクロマーユーユーという機織り工房です。

到着してすぐにお世話になるTさんに会うことができました。夏は日本に帰っていてお会いできなかったので、会うのは一年ぶりです。

そして経糸や色を決めてさっそく機織り開始です。今回も何か困ったことがあると、隣で機織りをしている女の子に助けを求めます。ただ、この回数は、自分で言うのもなんですが、ずいぶん減った気がします。特に今回の経糸はあまり切れることがなく、切れても自分で治せることが多かったからです。ただ、ときどきどうしてよいかわからないことが起こるので、そんなのときは声をかけて助けてもらいます。彼女たちも自分の仕事があるので申し訳ないのですが、いつも笑顔で助けてくれるので助かります。

機織りが始まると、機織り以外のことは考えられなくなります。無心ではなく機織りのみ、という状況です。ただ緯糸を通せばいい、打ち込めばいいというだけではないことはすでに重々理解しているので、今回はそれをどうより良くさせていくがが課題でした。

布の耳にあたる部分は、緯糸の引っ張る力の具合で変わってきます。きれいな耳になるか不揃いの耳になるかが決まるのです。でもそれだけに気を取られていると、左右の打ち込む力が微妙に変わり、左右のバランスが悪くなってしまいます。同じように力を入れているはずなのに、なぜか左の方が強くなるようで、気をつけないと右側の打ち込みが甘くなってしまいます。する、ストライプの幅に差異が出てきてしまうわけです。もちろん、一色のときは色の濃淡が変わってきてしまいます。

それでも、以前に比べればずいぶんスムーズに織れるようになったとは思います。一日が終われば、背中、お尻、手などが痛くなってくるのですが、やはり好きなのだなあ、と思います。

今回は一枚のクロマーを織ろうと思っていたのですが、二日目の割と早い時間に一枚が織りあがってしまったので、二枚目にチャレンジすることにしました。もちろん、二日では終わりませんが、あと半日あれば大丈夫だろうと、アンコールワットを見に行った日の午後に再度訪問して織り上げました。

この織り上げて、布を布巻から外すときの高揚感がたまりません。頬がずっと緩みっぱなしなってしまいます。こんなに長いものを織り上げたのだという達成感がすごいのです。この体験をしてしまうと、また織りたくなってしまうのです。

今回もすてきなクロマーが織り上がりました。何度も何度も体験をさせて頂いている工房に本当に感謝です。Tさんや他の女の子たちにもお礼を言って、今回の機織りは終了しました。次は夏ですね。


工房の様子
二枚目開始!
完成!

2015年12月27日日曜日

麗しのアンコール・ワット

カンボジアに来て四日目。アンコールワットへ行ってきました。アンコールワットはもう数えきれないほど訪れていますが、今回も外すわけにはいきません。年末年始は一年の中でも一番観光客が訪れる時期です。どこへ行っても混んでいる状態ですから、一番人気のアンコールワットであれば言わずもがなです。ですから、人が多くいることは承知の上で訪れるのですが、その中でも人があまりいない時間帯を選ぶようにしています。

朝、七時にNくんの車に乗り込みアンコールワット向かいます。チケットブースで一日券を二十ドルで購入します。今回はアンコールワット以外の遺跡を訪れる予定はありません。行きたくない訳ではなくて、人が多すぎるので足が向かないのです。我儘な観光客だと一人苦笑しますが、静かな遺跡を知っているだけにダメです。

アンコールワットの写真を撮るのであれば、午後の時間帯がベストなのですが、そうなると参道は人々で埋め尽くされ、回廊もガイドの声があちこちに響き、静かにゆっくりからは程遠い状態になってしまいます。もちろん、朝早い時間帯も最近は人が多く訪れるようになってしまいました。それでも午後よりはまだいい、というレベルでしょうか。

アンコールワットの表参道にあたる西側からは入らず、あえて東側を選びます。やはり人が少ないのと、午前中であれば東側からの方が順光になって写真が撮りやすいからです。


アンコール・ワットの東側


東側にあるストゥーパ
それにしても、東側からの来訪者も増えました。今まではほとんど誰もいないときの方が多かったのですが、今回は少ないとは言え観光客の姿が見えないときはありませんでした。ただ、ときどき人の流れが止まるときがあるので、ふっと静かになる時があります。私は時間を気にせずいくらでも同じ場所にいることができるので、その静かな時間を待つこともできるわけです。これは一人旅の特権かもしれません。

当のアンコールワットですが、やはりすばらしいです。なぜこれほどまでに惚れてしまったのかわかりませんが、何度見ても飽きることがありません。均整のとれた五つの塔。塔好きだからなのかもしれませんが、アンコールワットは最高です。



スーリヤ(太陽神)

2015年12月25日金曜日

定例のシェムリアップへ


定例のカンボジア訪問です。今回はお正月に奈良へも行くので、カンボジア滞在はいつもよりは短めですが、それでも一週間はいるのですから文句は言えません。

今回の目的はもちろん機織です。年末年始のシェムリアップはものすごい混み方をするので、遺跡はアンコールワットくらいしか訪問する予定はありません。

ベトナム航空を利用したのですが、ホーチミンでまさかのディレイ。それも一時間以上。そしてさらには搭乗口が変更になりました。それだけならたまにあることなので仕方ないとは思うのですが、そのアナウンスがまったくないのです。最初に言われた搭乗口で待ち続けるも、搭乗予定時刻になってもゲートには係り委員が来ません。やっと制服姿のお姉さんが来た、と思ってホッとしながら見ていると、画面には別の便の表示がされてしまいました。周りも少しざわつき始めました。

仕方がないので、いったん搭乗口を離れてインフォメーションデスクへ向かいました。途中で見た出発ゲートを案愛する掲示板にも搭乗口の番号は表示されていません。インフォメーションに座っていたお姉さんに聞いてみると、憮然とした表情でチケットに何かを書き込みました。読み取れなかったので聞くと、ムッとした顔で「十から十二って書いてあるでしょう」と。以前にホーチミンの空港を利用したときに、職員の態度は悪いなあ、と思っていたのですが、今回も変化はないようです。社会主義の国だからなのでしょうか。

ただ、今回は言われた搭乗口に行ってもよくわからないので、客室乗務員と思われるお姉さんに再度声をかけてみると、彼女はとても丁寧に教えてくれました。まだ該当する機体がホーチミンに到着していないために、搭乗口が決まらないのだそうです。もう少し待ってみてください、と言われました。これくらいのトーンで話してくれるといいのですけれどね。別に日本のようなサービスを期待しているわけではないのですから。

聞いてから十分ほどで、画面に新しい登場ゲートが表示されました。まったく異なる搭乗口です。急いで移動しますが、他の乗客たちも同じ状況でバタバタしていました。それにしても搭乗口が変更になったこともアナウンスはなし。遅れることも、変更のこともアナウンスがないというのは驚きです。これが初の海外旅行の人や、個人旅行に慣れていない人は辛いだろうな、と思いました。利用者に優しくない空港です。

さて、シェムリアップです。さすがに暑いです。今年の日本は暖冬ですが、それでも気温はまったく異なります。シェムリアップに到着したときの気温は二十八度でした。

入国し荷物を受け取り外に出ると、なんとそこにはNくんの姿が。事前に、年末はどうしても忙しいのでNくんにお願いするのは難しいです、と言われていたのです。ところが、外に出ると見知ったNくんの姿が目に飛び込んできました。つい頬が緩みます。くるまにのりこみ、いっきにクメール語の世界に入ります。

Nくんの家族もNくんも元気そうで何よりです。それにしても、空港からホテルまでの道もずっと渋滞でした。本当に人が多いのだなあ、と実感してしまいます。

今回もお世話になるのはフランジパニ・ヴィラ。今回初めてネット予約をしてみました。それも奮発してプールビュー。これは大正解。もともと外の光が部屋に差し込まないと嫌な人なので、プールビューの部屋は最高です。それも最上階のプールビューだったので、ベランダに出れば遠くまで見渡せます。空が見える。これが本当に好きです。

さて、明日からはいよいよ機織りです。

プールビュー
フランジパニの外観
部屋からの眺め

朝焼け

2015年12月21日月曜日

羽黒山五重塔 ~山形県鶴岡~

山形県二日目は羽黒山五重塔です。当初、土門拳記念館を訪れるためだけに山形県を訪問しようと思っていたのですが、何かのきっかけで、「そういえば羽黒山って山形県ではなかったっけ」と思い出したのでした。調べてみると行けないわけではなさそうです。ただ、バスの本数は少ないですし、この時期に訪れる人はほとんどいなさそうです。それでも、塔好きの私からすればこのチャンスを逃すわけにはいきません。もともと行きたいとは思っていましたが、不便そうでしたし、なかなか行くチャンスはないかもしれない、と思っていただけに、これはもう行くしかない、と考えたのでした。

とにかく電車とバスの接続は悪いですし、ずいぶん時間をロスする事になりそうでしたが、その辺りは適当に時間をつぶす術を身につけてきていますが、何とかなるだろうとは思っていました。

8時40分頃に鶴岡駅に到着したのですが、バスは9時46分発。近くにあったミスドで時間をつぶします。バスに乗り込み揺られること約50分。随神門というバス停に到着です。五重塔はここから歩いて10分ほどのところにあります。

鳥居そして奥に見えるのが随神門
それにしても誰もいません。バスも途中から私一人になってしまいました。観光シーズンには開いているであろうお店もことごとく閉まっています。でも、人が多いよりはずっといいので、気を取り直して随神門という門に向かいます。

随神門をぐぐると・・・
下りきって振り返ると
羽黒山の五重塔が変わっているのは、神社に属している塔ということでしょうか。今まで見てきた塔はすべてお寺に属しています。ところが、羽黒山は出羽三山の一つであり神社なのです。ですから、随神門もお寺でいうと仁王門のような役割をしているのでしょう。

随神門をくぐると目の前には鬱蒼と茂る杉の巨木が広がります。そして石段です。まずはずっと下っていくのですが、行きが下りということは、当たり前ですが帰りは上りになるわけで、こんな石段が続くなんて書いてあったっけ、と心の中でぼやいてしまいました。

石段を下りきると、そこには小さなお宮が5つほど建っていました。もともと神社が苦手な私ですから、誰もおらず、薄暗く、不気味に見えてしまうお宮が並んでいると、やはり「こわっ・・・」と呟いてしまいます。なぜお寺はいいのに神社がダメなのか自分でもよくわからないのですが、やはりダメです。

歩みを進めていくと、赤い欄干の小さな橋があり、奥には滝も流れ落ちていました。なかなかいい雰囲気なのですが、滝の近くには小さな小さなお宮があり、やはり少し近寄りがたくてそばまで行きませんでした。
滝と石橋

さらに進んでいくと、杉林の奥にちらりと見えてきます。五重塔です。これはいい塔だ、と直感的に思いました。五重塔の手前に爺杉と呼ばれる大きな杉の木があるのですが、その杉と五重塔がとてもいいのです。誰もおらず静かな空間の中に佇む爺杉と五重塔は、それだけで現実離れした雰囲気を持っています。

爺杉と五重塔

五重塔の正面に建ってみました。すらりとした五重塔ですが、とても均整のとれた五重塔だと思いました。彩色はされていないのですが、それがまた渋い雰囲気を作っています。途中、雨がぱらついてきてしまいましたが、近くで屋根を見上げていると、杮葺きの屋根からぽつぽつと落ちる水滴もまたいい感じでした。

思ってたよりも時間を使ってしまいました。HPには随神門から拝観時間は30分ほど、と書いてあったのですが、一時間後のバスまでぎりぎりの時間になってしまいました。本当はもっとゆっくり見ていたかったのですが、このバスを逃すと二時間後になってしまうのでこれはさすがに厳しいです。ですから、もっと見ていたかったのですがバス停に戻ることにしました。

このあとバスに乗って羽黒山の頂上まで行き、神社を拝観してきたのですが、修復中なのか覆いがかぶさっていたり、よくわからないということもあったりと、ほんの10分ほどしか滞在しませんでした。もともと神社は苦手なのです。五重塔を持つ神社だから、と思って訪れたのですが、やはりぴんと来ませんでした。神社には申し訳ないのですが、まだまだ神社は遠い存在です。






羽黒山頂上の神社

2015年12月20日日曜日

土門拳記念館 ~山形県酒田市~

一泊二日で山形県の酒田市を訪れました。先日、入江泰吉の美術館を訪れたときに、入江泰吉と土門拳という大和路を代表する写真家の写真集を購入し、入江泰吉とはまた異なる眼差しを持つ土門拳に興味を持ちました。土門拳が足蹴く通ったお寺の一つが室生寺だというのも重要なポイントかもしれません。

それにしても酒田は遠かったです。東京駅から新潟まで約二時間、さらに新潟から酒田まで羽越線の特急で二時間強。さすがに座っているのがきつくなってきます。特急からは日本海の荒波を間近に見ることができ、これはとても久しぶりのことだったので、ずっと外を眺め続けていました。

日本海
荒々しいです
酒田からは一時間半に一本というるんるんバスに乗ります。40分ほどの待ち時間があったので、土産物屋のイートインコーナーで、だだちゃプリンなるものを食べてみました。枝豆のプリンといえことになるのですが、なかなか美味。だだちゃ豆の香りがふわっとするのですが、なかなかいい感じでした。ただ、それほどしょっちゅう食べたい感じではありませんでした。

るんるんバスに乗ること20分弱。土門拳記念館のバス停に到着します。とても近代的な打ちっぱなしのコンクリートでできた建物ですが、シンプルですっきりとした建物です。

シンプルな外観
土門拳は酒田市の名誉市民第1号でもあるそうです
この時期、「ぼくの好きなもの」と題した展示がされていて、お寺や仏像の写真が大きく引き伸ばされて展示されていました。迫力があります。

土門拳の写真を見ていて思うのは、力強さとでも言うのでしょうか。戦っているなぁ、という思いが湧いてるのです。喧嘩をふっかける、という挑み方ではなくて、自分のすべてをぶつけているんだから、お前もすべてをぶつけてこい、と言われている感じがします。

入江泰吉も土門拳も強さと優しさの両方を兼ね備えていると思うのですが、入江泰吉が優しさの中に秘められた強さ、という印象に対して、土門拳は力強さの中に秘められた優しさ、というイメージでしょうか。写真にも性格が、想いが表れるのだなぁ、と改めて感じました。

大好きな室生寺の写真を始め、奈良や京都の写真、そして見ていて訪れたくなる場所の写真など、多くのインパクトを与えてくれました。特に気になったのが、島根県にある三仏寺と大分県にある臼杵石仏群です。三仏寺は以前から知っていましたが、険しい山を登らなくてはならない場所にあり、難しいかなと思っていた場所です。大分県の臼杵石仏群は初めて知った場所ですが、ここはまた訪れたい場所の一つとしてインプットされました。大分県ですから飛行機でしょうか。

バスの本数が少ないこともあり、結局3時間近く記念館に居座っていました。ずっと写真を見ていたわけではなく、置いてあるソファに座って持ってきていた本を読んだり、流されていたビデオを見たりしながらバスの時間を待っていました。

ビデオで初めて動いている土門拳を見たのですが、やはり戦いの人だなあ、と感じてしまいました。晩年、二度の脳卒中で倒れながらも、車椅子で移動し、不自由になってしまった右手の代わりに左手で筆を取るなど、病気に屈することなく写真を撮り続けた姿には頭が下がります。「戦う」よりも「闘う」方が合っているのかもしれません。

わざわざ山形まで来た甲斐があったな、としみじみ思うことのできる記念館でした。

土門さんという題名らしい

2015年12月6日日曜日

湖北プレミアムツアー

また日帰りでの遠出です。今回は湖北でのプレミアムツアーに参加してきました。普段はツアーが苦手なのですが、今回のツアーには、医王寺が組み込まれており、さらには高月観音の里民族資料館の学芸員が一緒にまわってくれるということで、苦手なツアーに参加してきたのです。

9時半に米原駅前に集合し、小型のバスに乗り込んで出発です。参加人数は25名程度だったてしょうか。まずは高速を経由して高月へ向かい、民族資料館とその隣にある渡岸寺の見学です。

民族資料館は小さな資料館ですが、高月の観音様たちについてわかりやすく説明してくれています。さらに今回は学芸員の方が一緒ですから、さらに詳しい説明を聞くことができました。
小さいながらも見る価値あり

次の渡岸寺ですが、国宝の十一面観音立像があることであまりにも有名で、すでに何回か訪れている場所でもあります。今回は住職の方からの説明があったので、これはなかなか興味深かったです。

十一面観音は基本的に女性的と言われることが多いようなのですが、私はなかなかそのようには思えません。女性らしい観音様もいれば、男性らしい観音様もいます。渡岸寺の十一面観音は女性的、という説明がされていました。腰のひねり具合、正面からは引き締まっているのに、左右から見るとふくよかなお腹周りになっているところなどが理由のようです。確かに女性的でもあると思うのですが、全体が醸し出す雰囲気はどちらかというと男性っぽく見えてしまいます。私の見方がおかしいのでしょうか。

渡岸寺の参道
この下に観音様を埋めて、戦火から守ったのだとか
この後はお昼になります。想古亭という古民家を改造したような場所でした。長浜に昔から伝わる郷土料理ということで、鯖寿司や大豆と琵琶湖でとれる小エビの煮物など、今まで食べたことのないような食事ばかりでした。美味しかったか、問われると少し微妙です。現代の味覚に浸りきっている私の舌にはあまり合いませんでした。残念。琵琶湖産のシジミのお吸い物はとっても美味しかったですが。

不思議な色合いでした

食後に向かったのは弘善館という場所です。以前はすぐ後ろの小高い山にあったお寺なのだそうですが、他の場所と同じように無住であり、なかなか守ることができないということで、集落に収蔵庫を作ったのだそうです。滋賀県に四躰しかないという脱括乾漆という手法を用いた十一面観音立像が、ここに安置されています。

そしていよいよ医王寺です。以前からずっと行きたかった場所でした。ただ、最寄りのバス停から田舎道を30分以上歩く必要があると聞いていて、なかなか難しいかもしれない、と思っていたのです。ですから、今回のツアーで医王寺が組み込まれていることを知ったとき、これは行くしかない、と思っていました。

小型のバスでしたので、予定よりもすぐそばまで行くことができたようです。本当に小さな集落の中にあるお堂ですが、思ったよりも立派なものでした。すでに担当者の方がいらっしゃっていて、全員が揃ったところで、厨子の扉を開けてくれました。
医王寺


すらりとした等身大の十一面観音さまです。とてもすっきりとした凛々しい顔をしていました。ここの十一面観音もどちらかというと男性的に私には見えます。イケメンの十一面観音です。石道寺の村の娘のようなかわいらしい十一面観音のことをふっと思い出しました。なぜか、いい感じのカップルに思えてしまったのです。観音様にカップルも何もないのですが、可愛さを漂わせる石道寺の十一面観音ときりりとした医王寺の十一面観音がいい感じに見えてしまったのかもしれません。

写真撮影は禁止でしたので写真を購入したのですが、残念ながら本物の良さをほとんど写し取れていませんでした。記念に購入させていただきましたが、これだけすてきな観音様なのですから、プロの方に撮ってもらえたらいいのにな、と思います。入江泰吉や土門拳であればどのように写してくれるのだろうか、とついつい考えてしまいます。

医王寺の次に向かったのは己高閣と世代閣ですが、こちらはすでに何回か訪れている場所なので、説明はきちんと聞いていましたが、あまり集中していなかった気がします。実はこの頃から、少し体調が悪くなってきているような気がしたのです。なんとなく熱っぽい感じがして、もしかして風邪の引き始めなのかもしれない、と思ってしまったため、バスの中でもなるべく目をつむっているようにしていました。

己高閣近くのお堂と紅葉
それなりにきれいでした
最後は来現寺だったでしょうか。シークレットということで、普段は一般公開していないお寺なのだそうです。珍しく聖観音でした。地域によって十一面観音が多いところと、聖観音が多いところと分かれるそうで、その地域によって信仰されてきた観音様が違うようでした。なかなか堂々とした観音さまでしたが、この頃には本当に調子が悪くなってきてしまい、あまり集中してみることができなくなってしまいました。

まあ、一番大事な医王寺の観音様を拝観できたということで十分頑張って日帰りした甲斐はありましたが、帰りの新幹線はどこでストップしたのかもわからないほど爆睡してしまっていました。








2015年11月23日月曜日

室生寺三昧と紅葉 その③ 2日目ライトアップ

2日目は夕方に室生寺へ向かいました。室生口大野のを15時25分発のバスに乗り込み、今日も室生寺へ向かいます。

中途半端な時間でしたが、室生寺の太鼓橋の手前にある橋本屋で遅い昼食兼早い夕食を頂きました。初めて山菜そばを頂いたのですが、そばが柔らかめだったので、私の好みからは残念ながら外れてしまいました。ただ、ここのとろろ汁は個人的にとても気に入っているので、単品で注文してしまいました。体の内側から暖まるので、この時期にはとてもいい感じです。

ライトアップにはまだ早いので金堂へまずは向かってみると、網代僧侶と職員の方がちょうどライトアップの準備をしているところでした。すでに小雨がぱらついているあいにくの天気でしたが、灯籠にはろうそくの火を灯すようです。職員の方も顔を覚えて下さっていて、昨日も来てましたよね、と。これだけ足蹴く通う人も珍しいでしょうから。

ライトアップ前 暗すぎる・・・

16時半には五重塔の階段下にスタンバイしました。雨足はそれほど強くなく、時折止んだりもするのですが、一眼レフを持つ身には少し厳しいものがあります。だからと言って止めるつもりもないのですが。

17時前に突然ライトがパッと点灯しました。あれ、鐘の音が合図ではなかったっけ?と思ったのですが、どうしたのでしょうか。ただ、階段ではまだ職員の方が最後の履き掃除をされていて、ライトが点灯したとき、あれっ?という仕草をしていたので、やはり早すぎたのかもしれません。途中で仕事を止めるわけにはいきませんから、職員の方もガシガシと急いで掃いています。もしかして堀本さんかも、と思ってみていたところ、確かに堀本さんだったのですが、あっという間にいなくなってしまったので、声をかけそびれてしまいました。

再度、昇る龍 手前は湖を表しているのだとか

雨が降っているという条件下でも、がんばってシャッターを押してきました。三脚は重いので持ち歩きません。ですから、石塔や柵などを利用してカメラを固定しながらがんばってシャッターを切ります。出来不出来は現像してからのお楽しみです。

昨日が遅かったこともありますし、雨のためベンチに座って鑑賞することもできず、この日は早めに切り上げることにしました。帰りに仁王門近くの納経所で網代僧侶を見かけたので、今日はこれでお暇します、と伝えると、いい写真は撮れましたか?と聞いてくれました。現像してからのお楽しみですね、と笑うと、今日は人数が少なかったのでは、と聞かれたので、写真は撮りやすかったかもしれないですね、と答えました。明日はどうやら休みを取っているとのことで、お会いできそうにないですが、またの機会があると思うのでそのときを楽しみにしたいと思います。

バスに乗り込み、また奈良の市内に戻ります。これだけ室生寺尽くしにするのだったら、もう少し近いところに宿を取れば良かったかな、と少し思ってしまいました。

入江泰吉 回顧展

2日目の午前中、東大寺を訪れた後、入江泰吉美術館へ行ってきました。この時期、「回顧 入江泰吉の仕事」という特別展示が行われていて絶対に行きたいと思っていました。個人的にとても好きな写真家ですし、あの大和路を優しく見つめ続けてきた人です。遠い存在ではありますが、彼の写真はとても好きなのです。知人にも写真は写真集で見るのもいいけれど、やはり美術館でしっかり見てきた方がいいよ、ともアドバイスを受けていました。そんなこともあり、今回訪れたのです。

開館の9時半と同時に入館しました。最初は文楽の写真だったので素通りに近いことをしてしまいましたが、大和路の写真はすべてじっくりと堪能させてもらいました。白黒もカラーもしっとりとしているというか、落ち着きのある優しい眼差しが感じられます。

特に好きなのがやはり室生寺の写真でしょう。私には撮ることのできない十一面観音立像や釈迦如来坐像を始め、石南花と五重塔や金堂などの写真が目を惹きます。もともとは白黒を主に扱ってきたようですが、時代と共にカラーも扱うようになっていったのだとか。そのときの心境を綴った文章があるのですが、一番記憶に残っているのが、「いかにして色を殺すことができるか」という言葉です。カラー写真なのですから、色を殺すなど逆のように聞こえるのですが、私にはなんとなく感じることがありました。色があるとその色に振り回されてしまう気がしたのです。もっとこんな色ならいいのに、もっと鮮やかだったらいいのに、この色はいらない、などとついつい思ってしまう自分がいます。でも風景を写真に撮るなら尚更、そのままで撮らせてもらうしかないのです。それよりも構図やそこでどう切り取りたいかという自分の想い、そのようなところが大事なのかもしれない、と改めて思わされました。

最後の小さな売店でまたもや衝動買いです。もう一人の大和路の写真家である土門拳と入江泰吉の二人の写真集があったのです。それも、同じ被写体が左右に並べられていて、とても興味深いのです。パラパラとめくっていた中でとても印象的だったのは、室生寺の釈迦如来坐像の横顔です。まったく同じ被写体ですし、同じ構図なのに表情が異なって見えるのです。この瞬間に、これは買うしかない、と思ってしまいました。

この後は、長岳寺へ向かいます。


早朝の東大寺

2日目は朝食をとってすぐに東大寺へ向かいました。入江泰吉美術館の開館が9時半でしたし、奈良公園の紅葉がどのような状況なのか見てみたい気持ちもありました。

広い敷地を持つお寺はあまり得意ではないのですが、東大寺は大きい割には好きなお寺の一つです。ただし、失礼ながら大仏殿には最近まったく行かなくなってしまいました。とにかく人が多すぎるのです。特にこの時期はただでさえ人出が多くなる時期ですから、表参道などあっという間に人で溢れてしまうでしょう。

そんなこともあり、最近よく利用するのが転害門です。東大寺の西側に位置するこの門は、以前にも書いたようにほとんど人がいません。ゴツゴツした木の節が力強さを見せつける様で、なかなか気に入っています。その転害門から入っていくと、大仏殿の裏手に出るのですが、ほとんど人影がなくひっそりとしています。

今回も転害門から入っていったのですが、犬の散歩をしている人が一人、朝のウォーキングをしている年配の女性が二人だけで、あとは全くといってよいほど人に会いませんでした。金堂跡には大きな礎石がずらりと並んでいますが、この時期は特にどこか寂しい雰囲気があります。紅葉はやはり今ひとつでしたが、寂れた感じの雰囲気が逆に心を落ち着かせてくれているようにも感じました。


大仏殿の裏手を抜けていくと、二月堂が見えてきます。やはりまだ、しんとしています。今回はそれほど寒くはなかったのですが、冬の早朝もまたピンと張りつめた寒さがまた良いものだろうなと思います。

二月堂から法華堂へ移動し、いつもの素晴らしい仏像群を拝観してきました。ここも私の好きな場所の一つです。まだまだ時間が早いせいか、訪れる人もほとんどいません。独り占めの状態でゆっくり拝観させてもらいました。

二月堂からの眺め

また、近くにある小さな四月堂にも寄りました。ご本尊は十一面観音立像なのですが、他に普賢菩薩像があります。普賢菩薩は一般的に白い象に乗っているのですが、この象が良いのです。ここの白象も目がたれ目でにへらぁ、と笑っているように見えるのですが、目が顔の前方にあるので、少し攻撃的にも見えます。草食動物の目は一般的に顔の左右についているのですが、この白象は肉食動物のように顔の前方についているのです。可愛いな、と思いながらも少し攻撃的な象でした。

このあと、入江泰吉美術館へ向かったのですが、すでに大仏殿の表参道は多くの人たちが大仏殿を目指して歩いていました。もちろん、鹿たちに鹿せんべいをあげることを忘れてはいません。たまには大仏殿に行くべきかなぁ、と思うこともあるのですが、やはりあの人の多さを見ると心が萎えてしまいます。

2015年11月22日日曜日

稲淵の棚田 ~初冬 明日香~

初日、一旦室生寺をあとにて明日香の稲渕へ向かいました。9月の曼珠沙華の季節に初めて訪れた場所です。日本の棚田百選にも選ばれたというだけあって、山間の斜面に棚田が広がっている場所です。曼珠沙華の季節はやはりなかなかの見応えだったのですが、紅葉の時期ももしかしたらいい感じになるのではないか、と思ったのでした。

橿原神宮前から明日香の周遊バスに乗って石舞台へ向かいます。さすがに日曜日ということもあり、石舞台周辺の広場は親子連れや若い人たちのグループがたくさんいました。年輩者たちのグループもいて、ウォーキングなどに勤しんでいる姿も多く見かけました。

石舞台から歩いて20分ほどのところに稲渕の集落はあります。さすがにこの時期は稲渕まで訪れる人はほとんどいないようで、石舞台を過ぎるとあっという間に人影がなくなります。民家が立ち並ぶ集落を抜け、てくてくと歩いていくと目の前に広がる棚田が見えてきます。

稲渕の棚田

すでに刈り入れは過ぎ、切り株だけが残されているだけですが、それはそれでなかなか素敵な景観です。ススキもまだまだ生えていて、良い構図がないかと探したのですが、これがまたなかなか難しいのです。


曼珠沙華の時期には観光客で賑わっていた案山子ロードにも行ってみましたが、誰もいません。車で来た人たちが道路脇に車を停めて写真を撮っていたりしていましたが、わざわざ案山子ロードまで行く人はいないようです。すでに案山子は撤去されてしまっていましたが、巨大な案山子一体だけは棚田中にドーンと立っていました。

刈り取られた稲が干されている風景も絵になりますし、棚田はやはり優しい風景だとも思います。ただ、やはりというか、紅葉はダメでした。もともと紅葉する木々が少ないのかもしれません。紅葉をバックに棚田が撮れたら最高だなぁ、と思っていましたが、その面では残念な結果になってしまいました。ただ、全体的にはやはり好きな風景ではあります。確かに、鮮やかな艶やかな色合いはありませんが、草木染めに近いような優しい色には染まっています。写真で捉えるのは難しいかもしれませんが、やはりこの自然な色も好きなのです。

どこか懐かしい

そういえば、一つだけ色鮮やかなものがありました。柿です。たわわに実った柿の木が何本か植えられていて、柿の橙色がとても鮮やかでした。

室生寺のライトアップに間に合うために、少し急ぎ足の稲淵の棚田になってしまいましたが、また次は田植え直後の季節に来てみたいと思いました。




室生寺三昧と紅葉 その② 初日ライトアップ

明日香の稲淵で棚田を見てきた後、バスと電車を乗り継いで室生口大野まで戻ってきました。やはり連休の中日ということで、バスにも普段よりずっと多くの人たちが乗っています。

今回は17時20分発のバスに乗ったので、すでに周りは暗くなっています。室生寺まで続く一本道は電灯がほとんどないため、バスのヘッドライトだけが頼りです。普段、光が異常なほどあふれている都会から来ると、この暗闇がさらに濃く見えるのですから不思議なものです。

太鼓橋

室生寺のライトアップはすでに始まっていて、照明以外にも小さな灯籠がたくさん灯されていてとても幻想的な雰囲気に包まれていました。

仁王門前

鎧坂を上って金堂前に来ると、網代僧侶が地元の警備担当の方とお話をされていました。挨拶をすると、「あっ」という顔をして、先ほどはすみませんでした、と謝られてしまいました。先ほどの奥の院でのことなのでしょうが、あれだけの人がいるのですから会話などしていたら逆に失礼になってしまいます。全然問題ないです、と話していたら、警備の方が、案内してきていいですよ、と網代僧侶に言ってくれているではありませんか。すると網代僧侶も、あ、そうですか、と、なんと講堂まで案内してくれることに。なんという贅沢。

講堂や五重塔を見上げることのできる場所で、随分長いこと話や説明をして頂きました。今年、五重塔の前の階段に龍が浮かび上がるという素敵なライトアップがされているのですが、その費用がなんと100万円! えっ、そんなにするの、という驚きと、そんなこと教えてくれてしまっていいの、という焦りが。さらには、これ以上照明が増やされると電力が追いつかずブレーカーが落ちる恐れがあると、電力会社から厳しく注意されているのだとか。だから、ライトアップ中はエアコンも付けられないです、と苦笑していました。そして、このライトアップは基本的に赤字なのだとか。それも言ってしまっていいの?という感じですが、網代僧侶はいたってあっけらかんとしていて気にしない様子。ライトアップ中に最低100人以上来てもらわないとトントンにならないかも、と言っていましたが、少ないときは20人ほどしか来ない日もあるそうです。私からすれば、そんな日に訪れたい、と思うのですが、お寺さんからすれば厳しいものがあるのでしょう。

龍が昇っていきます

鐘の音を合図にライトが点灯されるんです、という言葉で、その鐘を見たことがなかったことに気付きました。そういえばまだ見たことがないです、と伝えると、わざわざその場所まで案内してくれました。金堂から脇道にそれた先にあったのですが、今までまったく気付きませんでした。まあ、立ち入り禁止の看板が立っているのでずっと気づかないままだった可能性もありますが。あれ、ライトが当たっていないですね、と近くまで行って、くるりとライトの向きを変えてしまっていました。勝手に動かしていいんですか?と聞くと、大丈夫でしょう、と笑います。

また、本堂まで戻ってきて、いろいろと話を聞かせてもらいました。多分、一時間以上は付き合って頂いたのではないでしょうか。予定していた6時50分発のバスの時間はあっという間に過ぎてしまいました。お坊さんについてのことなど、普段はなかなか聞く機会のないことまでたくさん話をしてくれるので、とても勉強になります。

本堂にて

それにしても、さすがにこの日は次から次へと人が来るので、なかなか写真を撮るチャンスに恵まれません。網代僧侶との会話を終えた後も、しばらく本堂辺りを陣取っていました。さすがに誰も写らないというのは不可能でしたが、それでと待っていると人の数がふっと減るときがあります。時間に制約がない者の強みかもしれません。

少し早かったのですが、戻ることにしました。山門前に行ってみると、またまた網代僧侶がいます。そしてまたまたいろいろな話に花が咲いてしまいました。ただ、19時50分発のバスを逃すと帰りの手段がなくなってしまうので、それだけは気をつけないといけません。そのことを伝えると、もし乗り遅れたら駅までは送れますよ、とまで言ってくれます。時々、村のおばちゃんたちがそんなことをしてあげているのだそうです。優しい。ただ、そこまで図々しくはなれないので、また明日も来ます、と挨拶をしてお暇しました。

新幹線の始発に乗って室生寺へ向かい、室生寺発のバスの終電で帰る。我ながら、よくやるよ、と苦笑しますが、室生寺はそれだけの価値は十二分にあります。明日もまた楽しみです。


ぶれぶれです・・・
金堂を見下ろす場所で
鎧坂