2014年10月29日水曜日

木津 秋の特別開帳

今日は朝から真っ青な青空が広がるも、気温はずいぶん下がったようで、コートを着ていないと厳しい。

昨日に引き続き特別開帳巡りだが、今度は京都南部の木津周辺にある海住山寺、岩船寺、浄瑠璃寺が目的地。前回海住山寺に行ったとき、あまりのヘアピンカーブと急勾配の坂にヘロヘロになったので、今回は加茂駅から行きはタクシーにした。1200円ほどかかるのだが、今回たまたま目的地が同じご婦人二人と相乗りをさせていただき半額以下で済んでしまった。ありがたい。

海住山寺の受付に行くと、一番乗りですね、と言われちょっと嬉しい(^-^) ここの特別開帳は五重塔の内部、普段は奈良国立博物館に所蔵されている四天王と十一面観音菩薩立像だ。

まず、五重塔だ。さすがに中に入れるわけではないが、四方の扉が開いており中を見ることができるようになっている。中央には舎利塔が安置され、四隅には小柄の四天王が立っている。小柄な五重塔なので、中も小さなスペースだが、扉の内側には火天、風天、菩薩などの絵も残されていた。

興味深かったのは、心柱が床まで伸びていなかったことだ。舎利塔が置かれている厨子の天井までしかない。床まであるのが普通だと思っていたので新たな発見でもあった。

海住山寺の五重塔

ここの四天王は複製だそうで、本物は本堂に置かれているということで、一度五重塔を離れて本堂へ向かう。本堂のご本尊は十一面観音菩薩。でも今回、印象に残っているのはやはり特別期間だけ国立博物館から戻ってくる小柄な十一面観音菩薩立像だ。写真で見たことはあったが、本物を見るのはもちろん初めて。

海住山寺の本堂

ガラスケースの中に立つ十一面観音像はとても小柄だが、表情がとてもいい。右足を少し曲げこれから一歩を踏み出すかのようなたたずまいだ。しげしげと眺めつつ、記憶にしっかりインプットされるように意識する。意識しないと、どこのお寺にどのような仏像があったかすぐに忘れてしまうのだ。すべてをはっきり覚える必要はない気もするし、気に入った仏像をしっかり覚えるようにすれば、おのずと記憶に残る仏像も増える気もする。ただ、ここ海住山寺はお寺全体が気に入っているし、この秘仏の十一面観音像の方が本堂のご本尊よりも気に入っているので、やはり忘れたくはない。

また、同じように別のガラスケースの中にオリジナルの四天王四体が置かれていた。驚くのその色彩の鮮やかさだ。長い年月の中で色彩が落ちてきてしまい、もともとの色がわからなくなってしまうものがほとんどの中で、この四天王はとてもきれいに色や模様が残っている。特に顔がそれぞれ赤、青、白、緑の四色に分かれていてとても鮮やかなのだ。個人的に好きな色は青で、青は多聞天の色のようだ。しかし天部という意味では広目天が意外に好きである。こちらの四体もじっくり見させていただいた。これほどの仏像たちをいつも拝観できないというのは残念だが、外気にさらされてこなかったからこそ色がこれほど綺麗に残っているともいえる。また、来年機会があったら来たいものである。

紅葉は海住山寺、岩船寺、浄瑠璃寺とも色付き始めてはいるが、まだまだではある。ただ、海住山寺には小さなもみじの木がすでに真っ赤になっていて、それはそれはきれいだった。境内にあるすべてのもみじが紅葉したら、相当艶やかな風景になるのだと思う。ただし、人混みもすごそうだ。浄瑠璃寺の食堂の方に聞いてみると、紅葉の最盛期は頭しか見えませんよ、と笑っていた。
海住山寺の五重塔と紅葉
海住山寺の境内にあるナスの置物(?)
前回、到着したとだまされた(?)山門らしき門
海住山寺口バス停付近
本数はこんなもんです

2014年10月28日火曜日

奈良 秋の特別開帳

奈良で秋の特別開帳が行われている。特別開帳と聞くと、ついつい行きたくなってしまうのは私だけではないと思うが、今日回ったところはあまり人がいなかった。現在、奈良では正倉院展が行われているので、そちらの方が人を集めているのかもしれない。

本当は木津川周辺のお寺巡りを先にしようと思っていたのに、昨晩突然雷がなりだし雨が降ってきた。今朝も朝から雨が降り続いていたので、急遽奈良周辺のお寺巡りに変更したのだった。

ということで、まずは朝一番で興福寺へ向かう。雨は上がっていたけれど、上空は厚い雲に覆われている。興福寺の東金堂後方が四年振りに開かれるということで、まずはとにかく東金堂の後方へ向かう。開門前に到着してしまったので、一番に入ってしまった。そのお陰で担当者からずいぶん詳しい説明を聞くことができた。

東金堂の後方にはたった一体だけ他の仏像とは正反対の向きに立っている仏像がある。正了知大将立像という。入った目の前に立っているのだが、またこれがとっても凛々しいお方で、失礼ながらとっても「イケメン」である。現代のアニメにでも出てきそうなほど凛々しい。興福寺といえばあの阿修羅像で有名だが、いやいやこの正了知大将立像も魅力においては負けていないのでは(^_^)b
他にも、普段は見ることのできない十二神将の後ろ姿を間近で見ることができるのもたまらない。中には昔の彩色がとてもきれいに残っているものもあり、時間を忘れてしばし見とれてしまう。そしてなんといっても、着衣の上からもわかるほど筋肉隆々の背中は、これまた失礼だがとってもセクシー(*^-^*) 後ろ姿に惚れてしまいそうである。

知らなかったのだが、興福寺では北円堂の内部も特別公開中ということで、国宝館をみたあと行ってきた。ここはまあ普通に弥勒如来を中心に四天王や菩薩像が安置されている。うん、まあ見る価値はあっただろう。

興福寺 北円堂
北円堂の入り口

そしてこのあとバスを利用して、西大寺、海龍王寺、法華寺、不退寺、さらに大安寺を訪問してきた。

一番印象に残ったのは西大寺の愛染明王。以前訪れたとき、この愛染明王は長い間秘仏だったから、色彩も鮮やかに残っているんだよ、と言われ、ぜひお会いしたいものだと思っていた。その念願がかなったわけだが、まず最初の印象は「凛々しい!」だった。明王といえば、基本的に憤怒の形相をしていて周りを恐ろしい顔で睨み付けていると思うのだが、西大寺の愛染明王はもちろん睨み付けてはいるが、あまり憤怒という感じには見えない。これまた失礼かもしれないが、とってもかっこいい。

1メートルもない小柄な愛染明王なのだが、ここまで写真と印象が異なるものなのかと少々驚いてしまう。写真の愛染明王はどちらかというとイメージ通りのいかめしい憤怒の形相なのだが、こうやって間近で見てみるとそこまで憤怒には見えない。きりっとした目鼻立ちで、私が今まで見てきた明王たちとは一線を画しているような気がするのだがどうなのだろう。

西大寺の本堂 愛染明王はここではなくこの写真の左にある愛染堂にいらっしゃる

海龍王寺も法華寺も普段は秘仏の十一面観音像が拝観できる。個人的には海龍王寺の方が好きだろうか。海龍王寺の方がこじんまりしていて、好きな五重小塔があるので雰囲気的にも好きなのかもしれない。

海龍王寺の本堂

海龍王寺の絵馬
海龍王寺の五重小塔

仏像は基本的に写真撮影不可なので、どうしても写真はお寺の外観だけになってしまうのが残念。この辺りのお寺さんは仏像がとても魅力的なので、お寺の外観はどれも似たように見えてしまうのだ。まあ、素人だからそう見えるのだろうが。

今回、時間的にも余裕があったので大安寺にも足を伸ばしてみた。こちらも十一面観音像が特別公開中。このころから気温が一気に下がってきて、バス停から徒歩8分という大安寺まで寒さが意外ときつかった。北風も強くなり、後から聞いたところこれが木枯らし一番だったそうだ。寒いわけだ。

大安寺には十一面観音像以外にもすてきな仏像がいくつかあって、不空羂索菩薩立像、楊柳菩薩立像、四天王などが宝物殿に安置されている。最初、扉を開けた途端、ピー・ピー・ピーと警報音が鳴り始めてビビったのだが、一応大丈夫だった。誰もいない宝物殿で大丈夫なのかしら、と心配してしまうが、信頼関係で成り立つものでもあるのだろう。

大安寺の本堂 寒かった・・・

まともや一日で相当数のお寺を巡り、仏像を拝観してきたこともあり、油断するとどのお寺の仏像がどんなお顔なのか忘れてしまいそうだ。絶対に忘れないのは、興福寺東金堂後方の正了知大将立像と西大寺の愛染明王。この二体は相当インパクトがあった。もちろんとってもイケメンだからでもある。

2014年10月24日金曜日

薬師寺の法話

唐招提寺での釈迦念仏会が終わったあと、時間があったので薬師寺にも行ってみた。
が、なんと境内は修学旅行生たちがわんさかいてびっくり。同時に二カ所で彼らのための法話が行われていて、少し聞かせてもらった。終了間際だったようですぐに終わってしまったが、どうやらまたすぐに別の学校が来るらしい。少し遅れているとのことだったので、先に金堂に行くことにする。

が、ここも修学旅行生でいっぱいなのだ。参った(^_^;) でもせっかくなので金堂内には入る。ぞろぞろと入ってくる生徒たちだが、薬師如来の前でお賽銭を投げ入れて手を合わせるとすぐに立ち去ってしまう。立ち去ってしまう、というより、ガイドに立ち止まらないで流れて歩いてねぇ、と言われているので、ゆっくり拝観することはできないようにされていた。仏像に興味のある子にとっては消化不良だろう。

前回行ったときの薬師寺 この時はとっても静かだった
 
私は、ざわざわとする金堂内ではあったが、薬師如来、日光・月光菩薩をじっくり拝観させてもらった。仏教への信仰心がないとはいえ、薬師寺の薬師如来、日光・月光菩薩を目にするとなぜか目が潤む。あとで聞くことになる法話の中で、人々がこの三尊像を見て感動したからこそ1300年もの時を経てもなお残っている、と話されていた。それがよくわかる。信仰とかとはまた別に、単純に感じるものがあるような気がする。そう考えるとき、この三尊像を作った仏師が気になる。何を思い、何を願い、この三尊像を作り上げたのか。彼ら仏師の思いが1300年の時を超えて語りかけてきているような気がするのは、考えすぎだろうか。この三尊像を見ていると、つい感傷的になる。

回廊 あまりにもきれいでついシャッターを押していた

金堂や講堂を見終わったとき、どうやら法話が始まるようだったので、聞きに行った。担当はここでもロータスロードで説明をしてくれた若き僧侶、高次僧侶だった。またもや勝手に「懐かしいなぁ」と思う。

しかし、薬師寺の僧侶たちはなぜこれほど話がうまいのだろう。以前に聞いたときの僧侶も、先程隣の部屋で話をしていた僧侶も、そしてもちろん高次僧侶も話が本当にうまい。お寺になんか興味のない高校生たちの心をしっかりつかんで話をしているのがよくわかる。

つかみもうまいし、その中でもしっかり大事なメッセージは伝えている。笑いを織り交ぜて、生徒たちを最後まで飽きさせない。先ほどの話と確かにネタは同じだったが、ネタがあればうまくいくというわけでもない。生徒たちの反応を見ながら臨機応変に反応する力も必要とされるはず。誰もができるとは思えないのだが。見事。

2、30分の法話だったがあっという間だった。笑いの中にも大事な要素、学ぶべき要素が入り、私も十分楽しませてもらった。

2014年10月22日水曜日

釈迦念仏会 唐招提寺

京都から奈良へ。

午後の目的は唐招提寺で行われる釈迦念仏会に参加することだった。仏教に全く無知なので、○○会というのがお寺で催されることを最近知り、どのようなものなのか知りたくなっていた。個人的に気に入っている唐招提寺で釈迦念仏会が3日間だけ開催されるということを知り、興味本位で行ってきた。

午後2時から始まるということで、1時過ぎには唐招提寺に到着しておいた。釈迦念仏会は、いつもは拝観不可の礼堂内で行われるという事で、礼堂内にある普段は秘仏とされる阿弥陀如来像が特別に拝観できるようになっていた。しかしこの阿弥陀如来、真っ暗な逗子の中に立ち、ライトが足元しか照らされていないため、顔を見ることが全くできない。まあ、秘仏だし仕方がないのかなと思いつつ、一生懸命目を凝らしてみるがなんとなく見えたような見えないような。仕方がない。

1時半過ぎから少しずつ準備が始まり、拝観者は広間の端の方に座り、僧侶たちが位置に着くのを待つ。内陣の左右に五人ずつ、内陣の正面に一番偉いと思われる僧侶が座す。午後2時、鐘の音が響き、正面に座した僧侶がお経を唱え始めた。

全員で唱えることもあるのかと思っていたが、結局50分近くこの一人の僧侶がお経を唱え続け、他の僧侶たちは何らかの動きはあったものの、私には何をやっているのかわからないまま50分が過ぎていく。

正直、畳の上に50分近く座り続けているのは大変だった。正座はしなくても大丈夫だったので良かったが、やはり静かにするべきだろうしバタバタ動くわけにもいかない。少し足を組み替えたりはしたが、やはり背中がずいぶん凝ってしまった。

最後に大きな動きがあった。内陣の中央にある舎利塔が2人の僧侶によって外に運び出され、僧侶たちに続き参拝者たちにも拝観が許されたのだ。この舎利塔には国宝にも指定されている。その舎利塔を運んだ一人は、ロータスロードで説明をしてくれた石田僧侶だった。まあ、私のことを覚えているわけもないだろうが、こちらは勝手に「あ、石田僧侶だ」とちょっと懐かしくなる。

参拝者たちは皆、舎利塔に手を合わせ拝んでいるのだが、私にはそれができない。何もしない私を僧侶たちはどう思うのだろう。

中に戻ると、先程の阿弥陀如来も再度参拝できるようになっており、今度はライトが顔を照らし、しっかりと表情を見ることができるようになっていた。皆さんここでも手を合わせて拝む。頑なになっているつもりはないのだが、やはり手を合わせて拝むことができない。でも、この阿弥陀如来の顔は好きだった。滋賀の湖東三山の一つ、西明寺の秘仏を彷彿させる仏像だが、関係があるのかないのか私にはわからない。拝むことはできなかったが頭は下げた。会わせてくれてありがとう。そんな気持ちだ。

2014年10月21日火曜日

鳥獣戯画特別展 京都国立博物館

書くことがいろいろたまっているのに、今日も日帰りの京都と奈良へ。

京都は国立博物館で開催されている鳥獣戯画特別展を見るためだ。国立博物館の開館時間が9時半だったので、いつもより少し遅めの新幹線に乗る。遅めとは言っても、仕事の日より早く家を出ているのだが(^_^;)

京都駅からバスに乗って国立博物館へ向かうも、まだ時間が早かったので先にすぐ隣にある三十三間堂へ行くことにした。ちらりと国立博物館の方向へ目を向けると、なんと長蛇の列ができている! まだ開館時間30分前だというのに。そんなにこの特別展は人気があるのか、と少し焦る。

三十三間堂は千手観音の数にも圧倒されるが、私にとって興味深いのは、千手観音の前に並ぶ二八部衆などの面々だ。日本語の説明だといまいちなのだが、英語の説明を読むとヒンドゥー教との関わりが説明されていて、聞き覚えのある名前がたくさん出てくるのだからたまらない。インドラ、ブラフマー、シヴァ、ヴィシュヌなど「あ~、あの神様ね」という感じなのだ。

三十三間堂を満喫した後、国立博物館へ向かう。やはり長蛇の列だ。屋外で20分、屋内で30分の待ち時間であるとことが書かれていたが、諦めてしまったらわざわざ京都まで来た意味がない。屋外にできていた列に並ぶ。


20人ずつ時間をおいて中に入れているらしく、数分間ごとに列が前に進んでいく。表記の通り約20分ほどでまずは博物館の中へ入ることはできた。しかしこれで終わりではない。展示室の前半は鳥獣戯画が保管されている高山寺の歴史や関連する品々が展示されているのだが、まずそこは素通りする。

この特別展の目玉、鳥獣戯画の巻物が展示されている部屋へまずは直行だ。特に一番人気の甲巻が展示されている部屋はまたもや長蛇の列である。ここでさらに30分待つことに。一列になって巻物の前をゆっくり進んでいくので、少しずつではあるが列はコンスタントに動く。壁には巻物の説明や絵が飾られているので、それを読みながら待つ。

そしてついにご対面だ。ガラスケースに入れられたら甲巻。巻物故に長いわけで、全体を見ることができない。特別展の途中で見せる部分を変えるというのだから、ある意味商売上手というか何というか。近ければ前半と後半の両方を見に来るだろうから。

今回見ることができたのは、うさぎとカエルが蓮の葉を的に見立てて、弓を射る対決をしている場面、うさぎとカエルが水遊びをしている場面などだった。日本最古の漫画と言われる鳥獣戯画だが、うさぎやカエル、キツネや馬など生き生きと描かれていて、見ていて笑みがこぼれる。


鳥獣戯画には甲乙丙丁の四巻があり、四巻全てがその一部分を披露しているのだが、やはり私が好きなのは甲巻だ。他の巻では人々の生活の様子が描かれていたりするのだが、やはり動物達の方が微笑ましいし好きである。一応、乙丙丁もざっとみた後、最初に戻って素通りした展示品もチェックはした。ただ、やはり甲巻の印象が強すぎて、他の部分は記憶が曖昧だ。

一番好きな場面は残念ながら絵葉書やクリアファイルになっていなかったが、甲巻の他の場面が描かれた絵葉書と手ぬぐいを買った。図録もどうしようか迷ったが、欲しいのは巻物だけだったので見送ることにしてしまった。最近、いろいろと本や図録を買いすぎていることだし。

外に出ると、列はさらに伸び、屋外での待ち時間が20分から50分に伸びていた!

 

鳥獣戯画の人気を甘く見ていた・・・。

このあと、奈良へ向かう。

2014年10月5日日曜日

木津のお寺 その③ ~~海住山寺~~

今度は加茂駅の西口にまわる。小さなロータリーはあるのにバスが見当たらない。バス停の前には二人ほどが座っていて、その前にはワゴン車がとまっていた。バスはまだなのかな、とキョロキョロしているとき、ふとワゴン車のドアに「コミュニティ」と書いてあるのを見つけてしまった。まさかこれがコミュニティバス?

運転手おじさんに聞いてみると、そうだよ、とワゴン車のスライドドアを開けてくれた。確かに運転席と助手席の間には、バスにある運賃箱と似たような透明な箱が置いてある。「バス」だと思って待っていたら乗り過ごすところだった。

結局出発時間になっても他の乗客は来ず、またまた私だけが乗って出発だ。ワゴン車はすぐに車一台がやっと通れるほどの細い道に入っていく。田畑が広がる田園風景の中を右左に曲がりながら進んでいった。

途中、一帯が広い草地のような場所があるのだが、こは昔の都が一時あった場所らしい。そこを走っているとき運転手のおじさんが、ここは昔都だったんだけど流行病でみんないなくなっちゃったんだよね。天然痘だよ、と教えてくれた。へぇ~そうなんですか、と相槌をうつと、昔だよ、今じゃないよ、昔の話ね、といやに強調する。さすがにそれくらいはわかってますよ、と心の中で笑ってしまった。もし天然痘が流行ったのが最近だったら大ニュースになっているはずですから。

そんな話をしながら乗ること15分。田畑の広がる小さな集落の前でワゴン車がとまった。ここから海住山寺までは徒歩だ。

バス(ワゴン車)を降りた場所
この道を抜けて行く

小さな集落を抜け、坂道を登っていく。それほど急な坂ではないにせよ、それなりの勾配があるのでゆっくり登る。目を上げるとその坂のずいぶん先に大きな看板があり、「海住山寺」と書いてあった。あそこがゴールだな、と思い、あそこまで一踏ん張りだ、と思いながら歩き続ける。
しかし甘かった。

そこはゴールでも何でもなかった。ゴールどころかその看板の下の方には矢印とともに800メートルの文字が。嘘でしょ! ここまでもずいぶん登ってきた感があるのにまだこれから800メートルもあるの? それも道はここからさらに急勾配になっている。引き返すわけにもいかず、覚悟を決めて登り始めた。 
一瞬目を疑った看板
こんなヘアピンカーブが続きます

風は心地よくなったとはいえ、日差しはまだまだ暑い。あっという間に汗が吹き出してきた。坂はますます急になりヘアピンカーブが続く。途中、二台の車に抜かされたのだが、二台ともギアを一番ローにして頑張って登っていた。

急な坂が少しなだらかになり一息つきながら歩いていると、先に山門らしき門が見えてきた。やっと着いたか、と道の左側にある山門に続く石段をあがるがどうも変。この石段、最近全く使われていないようで草がぼうぼう生えている。で、山門の先を見ると、なんとまた石段を降りて先ほどの車道と合流しているのだ。なんだこれは? わざわざ石段を登る必要など全くない。ただ疲れが増しただけ。

がっかりしながらもさらに歩みを続ける。もしかしてどこかで道を間違えたのか、と不安を覚え始めた頃、やっと海住山寺と書かれた階段を発見。登っていくと、今度こそ海住山寺の境内が目の前に見えてきた。やっと到着だ。

やっと到着

すでに一組の参拝客はいたが、すぐにいなくなってしまい、結局私の独り占め。門をくぐった正面に本堂が、左手に五重塔がある。この五重塔がまた素敵だ。一目見て、あ、この五重塔は好きだ、と思った。こじんまりとした塔だがバランスが私好み。同じく気に入っている室生寺の五重塔に続く小ささなのだそうだ。

まずは本堂への拝観から。どうぞ奥まで入って近くでお参り下さい、と受付のお姉さんに言われ、ご本尊の近くまで行ってご挨拶。少しふっくらとしたお顔だが優しい顔をしている。ご本尊の左側にある小部屋には、写真や他の寺宝が展示されていた。

それらを見ていると、先ほどのお姉さんが、わざわざご朱印帳を手渡しに来てくて、いろいろと説明をしてくれた。ここの本当の(?)ご本尊は現在奈良の国立博物館に収蔵されているのだが、一般公開はされておらずなかなかお目にかかる機会がないのだそうだ。ところが、今度の10月下旬の特別開帳にあわせて、このご本尊がお寺に一時帰宅されるという。さらに、同じく国立博物館に収蔵されている四天王も帰ってくる。これはまた来るしかないなぁ。

海住山寺の本堂
海住山寺の本堂


バスの時間までまだ一時間以上もあったので、本堂の裏手にある小さな高台の休憩エリアでゆっくるすることにした。あれだけの坂を登ってきただあって、この高台からの眺めは素晴らしい。誰もいないのをいいことに、汗を吸ったクロマーを木の枝にかけて干し、草むらの上に座っていてしばしボケーッとする。

休憩エリアからの眺め

五重塔にも行ってみる。ここの五重塔は屋外にある五重塔の中では二番目に小さいらしい。一番小さい五重塔は室生寺のものだ。海住山寺のこの五重塔も一目で気に入った。サイズもバランスも私好み。大きい五重塔も好きだけれど、これくらいのサイズが個人的には好きである。緑に囲まれた塔でここもまた別の季節に訪れたい場所だ。紅葉の時期もきれいなのだろうな、と想像がつくからだ。

お気に入りの一枚

時期が時期だからなのか、本当に参拝客も観光客もいない。ボーっとしていたときに、ハイキングをしていた年配者のグループが通っていったが、彼らの目的はここ海住山寺ではないようだ。あっという間にいなくなっていた。最後にもう一度本堂に入らせてもらい、中を見させていただいた。再度、開帳の期間は来るべき、という決意(?)と共に、山を下りることにする。

もちろん下りは肺にはまったく負担はかからないが、逆に膝に負担がかかる。どんどん下っていけるのだが、あまり膝に力がかかりすぎないように少し気を付けて歩いていく。せっかく苦労して登ったのに、という思いと、次回行くときはタクシーだなという考えが浮かぶ。10月であれば涼しいのだろうけれど、まあこれくらいの贅沢は許されるだろう。

元来た道を戻り、バス停に到着する。先程のハイキングのグループがいて少し驚くが、もっと驚いたのはコミュニティバスを見た彼らだ。これでは全員が乗れないということで、タクシーを一台呼んで11人のうち4人がタクシーで駅に向かうことになった。リーダー的な方が私にも気を遣ってくれて、全員がワゴン車に乗れるようにしてくれたのだ。私一人がタクシーを使うともちろん割高になってしまうしせっかくのフリー切符の意味もなくなってしまう。みなさん、いい人で良かった。

そんなことで無事に木津のお寺巡りは終了。ここは気に入った。気に入った順は海住山寺、岩船寺、浄瑠璃寺。10月下旬の開帳期間にはまた戻ってこよう。海住山寺はタクシーを利用するとして、他はまたコミュニティバスを利用させてもらおう。公共の交通手段を利用するのは大変な部分もあるけれど、個人的には好きである。

 

2014年10月1日水曜日

木津のお寺 その② ~~浄瑠璃寺~~

10時30分発のバスに乗り込むと、運転手は先ほどと同じ人だった。まだ出発時間まで数分あるからと停車しているとき、「お寺を回っているんですか?」と声をかけられた。相変わらず乗客は私しかいない。運転手も誰も乗っていないバスを運転し続けるのは、仕事とはいえ辛いだろうなぁと思う。それでも私みたいな観光客にとってはとても大事な公共の交通機関なので、廃止になることだけは避けて欲しい。
岩船寺のバスの停留所

岩船寺から浄瑠璃寺までは6分ほどとあっという間に到着した。ここは奈良からもバスで来られることもあるのか、すでに数組の観光客が訪れているようだ。

バス停から入り口まで参道らしき細い道を歩いていく。左手には土産物屋や小さな食堂もあった。
門をくぐるとまずは目の前に池が見える。そしてその右手には本堂、左手には三重塔が見える。池は現在修復中のようで、軽トラが止まっていたり、池の中央にある小さな島まで人工的な足場ができていたりして、景観としては少々残念な感じではあるが仕方がない。

本堂から三重塔を眺める

まずは本堂へ向かう。この浄瑠璃寺の本堂には九体の阿弥陀如来がずらりと並んで座っている。本堂が横に長いのはそのためだ。中央の阿弥陀如来が一番大きいのだが、その他の八体も十分な大きさだ。同じ阿弥陀如来といっても表情はすべて異なる。個人的に菩薩像や天部像の方が好きなので、如来像だと割合すんなり見て回ってしまうことが多い。

この九体の仏像を見ているとき、そういえば実家の近くに九品仏というお寺があったことを思い出す。と、浄瑠璃寺以外で同じように九体の仏像を安置しているのは世田谷区の九品仏のみである、書いてあり、ほぉ~と納得してしまった。

外に出て三重塔にも行ってみる。三重塔には薬師如来が安置されているとのことだが、毎月8日と正月三が日の天気の良い日しか開帳しないらしい。これはなかなか難しい条件だ。いつか拝観したいものだが、8日が休みの日でありかつ天気が良くなくてはいけないとなると、あまりチャンスはなさそうだ。ここの三重塔は瓦葺でなく桧皮葺で、個人的に好きな屋根だ。瓦屋根も嫌いではないしそれはそれでいいのだが、桧皮葺の方が優しい感じがして好きなのだ。
浄瑠璃寺の三重塔
 
三重塔から眺める本堂もなかなかいい感じである。お参りとしてはまず三重塔の薬師如来を拝観し、振り向いて本堂に向かって九体の阿弥陀如来を拝むのが正しいのだそうだ。

池を挟んで見る本堂(三重塔から)
 
この後は一度加茂駅へ戻る。まだバスの時間まで早かったので、近くの食堂で売っていた抹茶アイスを食べる。そこから車道が見えるのだが、ふと目を移すとちょうど反対方面に向かうバスが走っていくところだった。あのバスがまたUターンして戻ってくるのだろう。土産物屋を覗きながらバス停まで戻り待っていると、先ほど走っていったバスが戻ってきた。そしてまたまた運転手は同じ人。もしかして一日8往復をすべて一人でこなしているのだろうか。行き帰りでちょうど一時間くらいなのだが、そうすると休む時間もないし、お昼を食べる時間もないのではないか。気になったのだが、運転中に話しかけるのも悪いので、結局加茂駅まで到着してしまい聞けずじまいだった。

次はいよいよ最後の海住山寺。これが一番きつかった・・・。