2015年7月24日金曜日

白凰美術 ~奈良国立博物館~

奈良の国立博物館で白凰美術の特別展示が開かれています。始まる前から行くのを楽しみにしていた特別展示です。白凰美術の傑作とされる薬師寺の月光菩薩、聖観音菩薩を始め、法隆寺や法輪寺、そして野中寺からも国宝や重要文化財が集められています。国立博物館の年間パスポートも持っていますから、これは行くしかありません。

始まったばかりの休みの日ということもあるのか、思っていた以上に混んでいて驚きました。さすがに列を作るというほどではありませんでしたが、一人静かにゆっくりとというわけにはいきませんでした。

やはり圧巻だったのは薬師寺の月光菩薩です。光背もなく、ぐるりとまわることができるので、普段は見ることのできない背中をも見ることができます。が、どこか雰囲気が異なります。とても大きく感じましたし、薬師寺の金堂内で拝観するときと表情も異なる気がします。これは、聖観音菩薩も野中寺の小さな弥勒菩薩半跏思惟像を見たときにも感じました。同じ仏像なのに明らかに表情や雰囲気が異なって見えるのです。

勝手な考えですが、博物館入ってしまうと、仏増たちは信仰の対象から芸術品に変わってしまうからなのかもしれません。拝観ではなく見学。博物館に入ってしまうと美術品になってしまうのでしょうか。お寺のお堂の中で信仰の対象として拝観するのか、博物館の中で芸術品として眺めるのか、同じように見ているつもりでも違うのかもしれません。不思議な感覚でした。

もちろん、博物館での展示が悪いわけではありません。普段は見ることのできない背中を見させてもらったり、いつもは隠れている部分を見ることができたりしますので、やはりとても興味深いことがたくさんあります。短いながらも説明書きがあったりしますので、知らなかったことをたくさん知ることもできます。でも、仏像が一番美しく見えるのはお堂の中なのだろうなぁとは思います。

最近は防犯や防災の観点から、国宝や国の重要文化財をお堂から設備の整った別棟の建物に収蔵するお寺も増えてきました。仕方のないこととはいえ少し寂しい気もします。

今回の白凰美術の特別展示は思った以上に多くの展示品がありました。人の多さもあって後半疲れてしまったので、仏像以外はほとんど見ずに外に出てしまいました。ということで、期間中にもう一度訪れることになりそうです。


奈良国立博物館 新館

2015年7月22日水曜日

入江泰吉旧家

今回、東大寺近くにある入江泰吉の旧居が一般公開されたというニュースを聞いて、訪ねてきました。

旧居入り口
東大寺の戒壇院からまっすぐ伸びる道を歩いていくと、数分で到着します。入江氏は東大寺の境内が自分の庭のようによく写真を撮っていた、というようなことを聞いていましたが、まさに東大寺は入江氏の家の目と鼻の先にあります。

こじんまりとした家ですが、とても雰囲気の良い住まいで、入江氏の品の良さというか性格が伝わってくるような気がします。中に入ると、係りの方がいて丁寧に説明をしてくれました。一つ一つの部屋はそれほど大きくありませんが、客間、茶室、寝室、書斎などがあり、それぞれとてもシンプルですが、落ち着く空間になっていました。特に書斎の壁一面に並べられた書籍の数々は、入江氏がどのような本を読んでいたのかがわかるもので、なかなか興味深かったです。やはり奈良や大和に関するもの、歴史書などが多くあったように思います。

書斎の一角
書斎の本棚
奈良が好きになって初めて知った入江氏ですが、写真を見たときからすぐに気に入ってしまいました。写真を見る目があるとは言えませんが、好きな写真というのはわかります。特に入江氏の写真は眼差しが優しく感じるのです。仏像にしても大和の風景にしても、人々の暮らしを切り取るにしても、入江氏は本当に優しい。写真はある意味無機質なものですが、その中で感じられる優しさや暖かさが不思議です。
庭を見ながらコーヒーを飲むのが好きだったとか
廊下

そんなこともあり、入江氏の旧居に置いてあった入江氏の写真集をその場でスマホを取り出し、アマゾン経由で注文してしまいました。一冊はすでに絶版と書かれていたのですが、しっかりゲットしました。私が仏像の写真を撮る機会は一生ないでしょうが、奈良の風景は彼から少しでも学べればと思っています。きっと彼の被写体に対する思いが大事なのでしょう。同じ構図で撮ろうとしても、同じ場面などありません。植物は成長し、天気は同じには二度とならず、空気も変わります。その中で入江氏のような思いを込めて、待つ、という思いを持って撮っていきたいと、改めて思わされた入江氏旧居の訪問てした。

暗室

晩年はもっぱらお弟子さんたちが利用していたそうです


2015年7月19日日曜日

蓮の花 ~薬師寺・唐招提寺~

約1ヶ月振りの奈良です。この日をどれほど待ち望んでいたことか・・・、と言いたいところですが、仕事があまりにも忙しくて、ハッと気付けば今日になっていました。本当はもう少し、まだかなぁまだかなぁ、と待ちわびる心境になっていたかったのですが、あっという間にこの日になっていました。

特に今回はここに行きたい、と強く思っていた場所がなかったのですが、この季節はやはり蓮の花でしょう。また、18日から奈良国立博物館で、白鳳美術の特別展示が始まっているので、これも外せません。

朝早く起きて、始発の新幹線に乗り、9時過ぎには西ノ京の駅に降り立ちました。前日まで雨だったのですが、今日は雲が多いものの雨は降らず、気温がぐんぐん上がっていきます。西ノ京から薬師寺の南側に回り、正面から入ったのですが、その時点ですでに汗だくになっていました。

薬師寺にはもう何度も足を運んでいますが、まだ一度も東塔を見たことがありません。平成30年まで解体修復中だからです。薬師寺を訪れる度に、覆っているシートから塔の姿がちらりとでも見られないか見てしまうのですが、もちろんまったく中を窺い知ることはできません。完成後ばかり当分多くの参拝客でごった返すでしょうが、早く見てみたいものです。

蓮です。今年から食堂も建設されるということで、昨年蓮の鉢が置いてあった場所が移動されていました。でも、今年の方がいい感じです。なぜなら金堂や講堂をバックに蓮の花を撮ることができるからです。蓮の花だけでももちろん素敵ですが、やはり薬師寺の蓮、という構図も欲しいのです。

さすがに夏休みに入っているだけあって、いつもより多くの人たちが訪れているようでした。蓮の花もみなさん盛んに写真を撮っています。もちろん、スマホが多いですが、最近はスマホか本格的な一眼レフかどちらかになってきたようです。コンパクトデジカメとスマホのカメラ機能との差異がほとんどなくなってしまったのでしょう。
講堂と蓮の花

蓮の花はそれほど多くは咲いていませんでしたが、咲いているものはとてもきれいです。ピンクと白が主流ですが、私は蓮の花らしいピンクが好きです。ただ、蓮の花が私の希望する場所で希望するような咲き方をするわけがなく、金堂をバックに撮ろうとすると注意書きの看板が邪魔になったり、講堂をバックに撮ろうとすると終わりかけの花しかなかったりと、なかなか難しいものがあります。もちろん、蓮の花を愛でるだけでも十分な価値はあるのですが。

二日目の薬師寺
青空と金堂と蓮の花
薬師寺の仏像たちですが、現在、月光菩薩と聖観音菩薩が、奈良国立博物館に出張中です。白鳳美術の特別展示をやっていて、その代表格として出張しているそうです。後ほど訪れる予定なので楽しみです。

薬師如来、日光菩薩は相変わらずの美しさでした。

次に唐招提寺です。ここもいつもより多くの参拝客がいましたが、それよりも暑さに参りました。リュックを背負っている背中はすでに汗でびっしょりです。日差しというより湿度が高くて参ります。

唐招提寺の蓮は、なんといっても戒壇堂前の蓮池の蓮が一番見応えがあります。水面が見えなくなるほどに蓮が伸び、大きな蓮の葉で池全体を覆っています。そして、蓮の花もすらりと長い茎の上に大きな花を咲かせています。これこそが蓮、という鮮やかなピンク色の蓮が見事です。


実は二日目も唐招提寺と薬師寺を訪れてしまいました。最初、行くつもりはなかったのです。ですが、あとで書く予定の入江泰吉旧家を訪れ、彼の写真を見たり彼の話を聞いて行く中で、「待つ」という姿勢がとても重要なのだと考えさせられ、もう一度行こう、と思ってしまったのです。8時半に唐招提寺も薬師寺も開門するとのことで、まずは唐招提寺に向かいました。

開門数分前に到着したのですが、すでに10人ほどの人々が並んでいました。誰もまだ歩いていない境内を門から眺めるのもまた良いものだと思いました。この日は朝から晴天で気温もぐんぐん上がっています。そのような中、下の写真のような参道を眺めると、気持ちが落ち着きます。

朝一のため、まだ誰もいない唐招提寺の境内

蓮の花はやはり良い感じでした。昨日とはまた異なる表情を見せてくれていて、来た甲斐があったなと思います。しかし、この日は蚊も多くいたようで、カメラを構えている間に何か所も刺されてしまいました。汗だくでしたので、蚊にしても美味しそうな匂いがぷんぷんしていたのでしょう。

そして薬師寺です。ここでは、この日から夏の特別展示ということで、土の中にあったもの、というテーマで小さな展示が行われていました。現在修復中の東塔がたっている場所の地層だったり、発掘調査で見つかったものなど、それほど多くはありませんでしたが、なかなか興味深かったです。重要文化財もあり撮影は禁止されていましたが、以前から展示されている台湾からの檜や昔の薬師寺を空撮したものは撮影してもいいですよ、と言っていただいたので、しっかり撮ってきました。

台湾檜

空撮写真は驚きでした。今ではとてもきれいに整備されている薬師寺ですが、このときは周りを田んぼに囲まれ、東塔と昔の金堂らしき建物が見えるだけです。今では立派な伽藍ですが、この空撮時の状況からよくここまで再建できたものだと感心してしまいます。たくさんの人々の想いがこもった再建だったのだろうと感慨深いものがありました。