2014年9月30日火曜日

木津のお寺 その① ~~岩船寺~~

次の日は木津まで足を伸ばした。木津は京都府にあるが、どうやらこの辺りのお寺は大和路に加えられているようなので、ラベルとしては奈良のお寺にしてしまおう。

この辺りも実はバスがない。いや、あるけれど本数がとっても少ない。 まずはJR奈良駅から加茂へ向かう。加茂から岩船寺と浄瑠璃寺へは一日8往復しかないコミュニティバスを利用し、海住山寺へは同じく加茂から一日4往復しかないコミュニティバスを利用する。

最初は日曜日に回ろうと思っていたのだが、海住山寺へ向かうコミュニティバスが平日しか運航していないことを知り、急遽変更したのだ。危ないところだった・・・。

加茂駅に降り立ったのは9時9分。コミュニティバスが出発するのは14分。そのコミュニティバスのフリー切符があるということで駅員に売り場を聞いてみると、加茂駅の駐輪所の事務所で発売しているという。しかし時間的に厳しいと思ったので、もしかしてと思いつつバス亭にすでに駐車していたバスの運転手に聞いてみる。すると、バス内でも売ってはいるが5枚綴りになってしまうという。このバスに乗れないと予定が1時間もずれてしまい、海住山寺にも行けなくなってしまうこともあり、あきらめるしかないと思った。ところが、運転手が「待ってますよ」と言ってくれたのだ!

確かにバスには誰も乗車していない。だとしてもわざわざ待ってくれるというのだ。お礼を言って小走りに駐輪場へ向かう。事務所にいたおじさんに声かけてフリー切符を売ってもらった。そして小走りにバスへ戻る。すでに時間は過ぎていたけれど、ちゃんと待ってくれている。乗客はいなかったので迷惑をかけることはなかったと思うが、都心では考えられない臨機応変な対応で心が温まる。

バスは一気に山を登り始め、くねくねと曲がりながら走っていく。岩船寺までは15分ほどだっただろうか。結局最後まで乗客は私だけだった。降りるときに再度お礼を言う。

季節的ものなのか時間的なものなのか定かではないが、岩船寺の周りはひっそりとしている。地元の野菜を売るのであろう野菜スタンドがいくつか並べられていたが、まだ何も置かれていない。女性が一人用意をしているようだったが、他にはだれもいない。

山門をくぐると木々や草花が生い茂る境内が目の前に広がる。こじんまりとした境内だが正面には朱色の三重塔、右手には本堂が見える。濃い緑の中に建つ朱色の三重塔はよく映える。満開の時期はとっくに過ぎてしまっている百日紅の花もまだきれいに咲き残っていて、こちらもまた緑の中で良く映える。

山門を入って振り返ったところ
岩船寺の境内

まずは本堂へ。岩船寺のご本尊は阿弥陀如来坐像。本当に入るとすぐ右側に係りのおじさんが座っていて、ご朱印を書きながら簡単な説明をしてくれた。内陣の周りをぐるりと一周することもできるらしく、一度阿弥陀如来坐像に挨拶をしてから左から一周してみた。

後方にもさまざまな仏像が安置されているのだが、一番目を引いたのは象に乗った普賢菩薩像だ。普賢菩薩はとても穏やかですてきなお顔をされているのだが、乗っている白象の表情につい吹き出してしまいそうになる。失礼なのは百も承知なのだが、この顔を見てにやけない人はいないのだろうか。たれ目でにんまり笑っている白象なのである。なんでこんなに穏やかな普賢菩薩を乗せている象が、こんなにとぼけた顔をしているのだろう? とぼけたと言っては言い過ぎかもしれないが、ぜひ現地で見て欲しい。個人的にはそのひょうきんな顔が気に入ってしまったが、人それぞれではあるかもしれない。

その隣には小さな十二神将も勢ぞろいしている。とはいっても、とても小柄な十二神将で、四頭身であるために、とってもとっても愛らしい。もちろん顔はいかつくて周りをにらみ倒してはいるのだが、なにせ四頭身である。怖いというより可愛らしい。これまた失礼だが。

そんなことで、本尊の阿弥陀如来坐像より、白象と十二神将がしっかり記憶にインプットされてしまった。

外に出て三重塔へ向かう。この三重塔の再建はそれほど古くはないのだが、ここにも隅鬼がいる。ここの隅鬼は塔全体の朱色と同じ色なので、なんとなく猿を髣髴してしまう。個人的には唐招提寺の隅鬼が一番気に入っているが、ここの隅鬼は近くで見られるのがいい。なんと、この三重塔の裏手は山になっており、後ろに回り三重塔の二層目の高さから見ることができるようになっている。

あまり人が来ないせいか細い道にはクモの巣がありときどき髪に絡み付くが、手で払いながら三う中の塔の後方へ向かう。塔のすぐ後ろになるので、細かいところまで見ることができてなかなかいい感じである。 木が生い茂っているのだが、その隙間からこぼれる朱色は何ともいえず鮮やかだ。時間がたっぷりあったこともあり、二回もぐるりと周ってしまった。


三重塔の後姿

三重塔から本堂を眺める
ここから次の浄瑠璃寺まで石仏を見学しながらのハイキングコースもあるようなのだが、一人だし時間も決まっているので、時間の少し前にバス停に向かう。こじんまりとした岩船寺なので、一時間もかければ相当ゆっくり見学できる。別名アジサイ寺とも呼ばれるようで、6月になるとアジサイの花がたくさん咲くのだそうだ。また来なくてはならない寺が増えてしまった。まあ、奈良のアジサイ寺として有名な矢田寺は寺とアジサイの一体感がなくて今一つだったので、来年の6月は岩船寺に来るのもいいかもしれない。
 

2014年9月25日木曜日

飛鳥のお寺 その3 ~~橘寺~~

橘寺は聖徳太子が生まれた場所と言われている。岡寺から急勾配の坂を下り主要道路に出た後、平らな道を進んでいき、少しわき道にそれたところに橘寺はある。山門をくぐって中に入ると、目の前が開け、正面奥に本堂が見える。その山門の柱に可愛らしいお坊さんの絵と共に、今日の一言と思わしき言葉か書かれた紙が貼ってあった。それだけで、あ、このお寺はいい感じだな、と伝わってくる。


最初に本堂へ行ってみる。ここのご本尊は聖徳太子ということで、本堂の中央には聖徳太子の像が安置されている。仏像には興味あるが、実在の人物の像にはあまり興味が持てず、珍しいなぁ、ほどの感想で終わってしまう。外に出て御朱印を頂きに行くと、御朱印帳に書かれた岡寺の御朱印を見て、「岡寺に行ってきたのかい」と声をかけられた。「自転車で周ってるの?」と聞かれたので、「いえ、徒歩です」と答えると、「坂がきつかったでしょう」と微笑まれた。バスで途中まで行ったのでそれほどでもなかったですけれど、下からだったら相当きついですね、と応えると、うんうんとうなずく。



橘寺の本堂
「岡寺の三重塔の琴は気付いたかい?」と聞かれる。事前に何かの文章で読んでいたから気付きましたけど、知らなかったらわからなかったですね、と答えると、「そうなんだよ。ほとんどの人は気付かないで、ここで話をしてそうだったんだ、って驚くんだよね」と嬉しそうに話してくれた。また、その琴についても話をしてくれて、昔は法隆寺の五重塔にもあったらしいという話もしてくれた。「法隆寺の五重塔は素晴らしいよね。バランスのとれたいい五重塔だよね。金堂との位置関係もバッチリだし」と言われたので、私も法隆寺が大好きで奈良に来るときにはなるべく法隆寺に行こうと思っているんです、と言うと、そうだよねぇ、いいよねぇ、と嬉しそうにうなずいていた。他の観光客の方が見えたので、会話はここで終わってしまったが、こういうちょっとしたやり取りが嬉しい。こういうやり取りがあると、自然とそのお寺そのものが気に入ってしまうから不思議なものだ。

本堂の手前、右側には観音堂と呼ばれるお堂があり、ここにも橘寺のご本尊と言われる如意輪観音菩薩坐像が安置されている。ご本尊が二つ、というのも珍しいが、人物像と仏像ということでうまく両立しているのかもしれない。ここの如意輪観音菩薩像は今までにもよく見かける菩薩像で、岡寺の如意輪観音菩薩像とは全く異なる。個人的には橘寺の如意輪観音菩薩の方が好きではあるが。

如意輪観音菩薩像の四方には四天王もいらっしゃって、周りににらみを利かせていた。このお堂に入った右側に二人ほどが座れるスペースが設けられていて、ご自由にどうぞ、と写経の道具が置かれている。最初はあまり気にも留めていなかったのだが、バスの時間までまだ相当あり時間を持て余していたこともあり、初の写経に挑戦してみようかな、と思ってしまった。一枚500円というお手頃な値段にもつられたのかもしれない。

硯や筆ではなく、毛筆ペンを利用しての写経なので、ある意味気軽ではある。誰もいないのをいいことに、机の前に座り、用意されている紙を目の前に置く。すでに薄く下書きがされているので、それに沿ってなぞっていけばいいだけなのだが、初めてだし、毛筆など久しぶりだし、ちょっと緊張しているのもあるのか、手が若干震えている。深呼吸をして書きはじめる。筆ペンとはいえ久しぶりの毛筆である。懐かしい感じもして思ったより楽しんでいる自分がいた。書かれている内容は残念ながら理解できず、お経の一部分なのではないかな、と勝手に考える。

最後に住所氏名を書き、願い事を書くスペースもあるのだが、あまり神頼みは好きではないこともあり、願い事は書かなかった。で、代金の500円を払おうとお財布を取り出すと、なんと100円玉が1枚しか入っていない。もちろん千円札はあるが、さすがに千円を払うほど太っ腹でもない。大変申し訳なかったのだが、100円だけ備え付けの箱に入れさせてもらった。今度また訪れる機会があったら残りの400円は払います、と如意輪観音菩薩に頭を下げて観音堂を出た。この観音堂の柱にもまた可愛らしい絵が飾られていた。


あとはバス停まで歩くのみ。5分ほどで先ほどの道路に出て、無事にバス停を見つけることができた。10分ほど待つことになったが、バスに乗り込み、あとは橿原神宮前駅にまで行くだけだ。途中の石舞台のバス停では観光客がたくさんバスに乗り込んできて、あっという間に満員になってしまった。さすが飛鳥といえば古代遺跡、ということで、石舞台には車も人もたくさんいた。今はまだ興味のない古代遺跡だが、いつか興味を持つ日がくるのだろうか。そんな時が来たら、また飛鳥を訪ねてもいいかもしれない。

バスに揺られること30分ほどで橿原神宮前駅に到着した。あとは一気に奈良へ戻るのみ。一日かけて3つのお寺を巡ってきたが、やはり面白いというか楽しい。明日はいよいよ木津へ。ここも公共バスの本数がものすごく少ないので、事前の準備が重要な場所だ。そしてとても楽しみな場所でもある。